アレルギー疾患の患者さんとご家族の生活の質が向上することを目指し、アレルギーに関する正しい理解を広める活動をする「NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会」。代表の前田えりさんは、自身の子供にアレルギー疾患があったことをきっかけに、前身である任意団体「品川食物アレルギーの会」を設立します。当時から変わらない想いや、活動内容についてお伺いしました。
はじまりは保護者同士の繋がり。正しい知識の取得と相談できる場所の大切さ。
__「NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会」の設立の経緯を教えてください。
前田さん(以下、前田):私の子供がアレルギー疾患を持っており、保育園で同じくアレルギー疾患を持ったお子さんの保護者の方と出会いました。アレルギーについて話すようになり、それが1人増え、2人増え…という感じで、集まる場所も自宅から集会所を借りるようになりました。
会として名前をつけたのは、子供が小学校に入学するタイミングでした。保育園と小学校の大きな違いは「給食」です。当時は保育園も学校も、施設ごとに独自の対応をすることが多かったと思います。私の子供が通っていた保育園では小鍋調理だったこともあり、離乳食からアレルギー対応として細やかな除去食(アレルゲンを含む食材を除いて作った食事)を提供してくださいましたが、小学校は設備が全く違うため当然対応も変わります。また、現在品川区立の学校では教育委員会が作成したマニュアルに基づいたアレルギー対応がされていますが、当時は区立の小学校でも学校ごとにアレルギー対応が異なりました。毎年新入生が入学するたびに保護者自ら説明文を作成する等、個々の方法で子どものアレルギーについて説明・相談する状況は、保護者にとっても学校にとっても大変だと考え、説明・相談内容について私たちの経験をブログで公開することにしたんです。ブログを公開するにあたって団体の名称が必要だったため「品川食物アレルギーの会」という名称をつけました。
その後、活動する中で、アレルギー疾患を持つ患者さんとその家族が孤立しないこと・正しい知識を取得することが大切だと感じました。アレルギー治療は日々進歩するため、新しい情報を知ることは、生活の選択肢を広げることに繋がります。アレルギーに関する情報は世の中にたくさんあり、その中には悪質ないわゆる「アトピービジネス」に誘導する情報もあります。孤立せず、すぐに相談でき、正しい知識を得られる環境があれば、アレルギーとの向き合い方を適切に選択できるのではと感じ、活動の幅を更に広げる必要があると考えました。そのような経緯で、2019年に「NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会」という名称で法人化しました。
__「NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会」の活動内容についてお聞かせください。
前田:代表的なものは大崎ゆうゆうプラザで開催する「懇談会(おしゃべり会)」です。テーマを決める時もありますが、ほとんどの場合は特に決めず、アレルギー疾患を持つお子さんの保護者の方が自由に相談・情報共有ができる場です。アレルギーの症状はそれぞれですが、共通の悩みを話せる人がいること、「ひとりじゃない」と思ってもらえることを大切にしています。私自身、誰かに聞いてもらえたり、共感してもらえた時は気持ちが楽になりました。
大学病院の先生や専門家を招いた講演会も年に5回~6回実施します。これまでに、子どものアレルギー疾患、外食のアレルギー表示や防災などのテーマで行いました。講演会では参加者の方からの質問タイムを設けているのですが、誰かが質問したことを「同じことを聞きたかった!」とおっしゃる方も多いんです。知ることができて良かった、聞けてよかった、と言ってもらえると開催して良かったと思います。
また、正しい知識と理解が広まるよう、「しながわアレルギーねっと」に、区のアレルギーへの取り組みや国のガイドライン、マニュアルなどを掲載しています。
その他にも、アレルギー疾患を持つ患者さんとその保護者の方の声を医療の現場や行政に届けるため、実際に生活で困っていることに関するアンケート調査とアレルギー学会での発表も行います。
正しい理解のための啓発活動を続け、アレルギー疾患のある方が自分らしく生活できる社会を実現したい。
__活動する中で大切にされていることは何ですか?
前田:1つ目は、同じアレルギー疾患を持つ子どもの親としての思いから、考えを押し付けてしまわないように心掛けています。必要な情報を提供することでご家庭の方針に合う方法を見つけてもらえることが良いと考えています。ここは気軽に相談できる場所でありたいので、その方の意見や考えが話しやすい雰囲気づくりも大切にしたいです。2つ目は、専門医にご指導いただくことです。講演会だけでなく、「しながわアレルギーねっと」もアレルギーの専門医に監修していただきます。アレルギー疾患について正しい理解を広め、適切な治療に繋げられるよう、公的根拠に基づいた情報を公開しています。
__前身の「品川食物アレルギーの会」が発足してから約16年が経ちますが、アレルギーに関する理解はどのように変化していると感じますか?
前田:まだまだ理解は十分とは言えませんが、「配慮が必要で、時に命に関わる疾患である」という認識は以前よりはずっと広まったように感じます。
理解が進む中でも、例えば小麦アレルギーの方が被災地で「アレルギーがあるので、パンではなくておにぎりをもらえませんか」と伝えたときに「ワガママだ」と言われかねない状況はまだあると思います。災害の場でも様々な疾患に対して配慮されることが求められますが、当事者自身も周りに協力を求められるよう、自分の疾患についてしっかり伝えられるようになることが大切です。アレルギー疾患の有無に関わらず、皆さんが正しい理解を持つことが必要なのだと思います。
2014年には「アレルギー疾患対策基本法」が成立し、患者の意見も取り入れた「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針」が策定され、国、地方公共団体、医療保険者、国民、医師その他の医療関係者及び学校等の設置者又は管理者の責務についても述べられています。このような指針を元に、今後は仕組みを運用し、実際の生活まで落とし込む必要があると考えます。
__「NPO法人アレルギーの正しい理解をサポートするみんなの会」の今後の目標について教えてください。
前田:引き続き、アレルギー疾患対策推進の国の方針に沿って、患者さんやその家族が孤立せず、保育・教育・飲食・旅行・就労等の様々なシーンで自分らしい生活ができる社会の実現に取り組みたいです。乳幼児のアレルギー疾患も多いため、子供が集まる機会での接点を増やすことで、「そういえばこんな団体あったよね、相談してみようかな」と思い出してもらえたら嬉しいです。アレルギー疾患で困っている方のサポートができるよう、また、正しい知識を広められるよう、今後も活動を続けます。
(古郡優)