品川区に今も残る伝統工芸(畳)

第170号(2024.4.20発行)

日本の伝統的な床材である畳。風合いや香りの良さはもちろんのこと、機能性が高く日本の住環境に合わせて今も進化を続けています。今回は畳職人の松井雅治(まついまさじ)さんに、畳の魅力や仕事内容についてお話を伺いました。

部屋ごとに採寸して作る。一つの畳ができるまで

品川区にある松井畳店の三代目である松井さん。父親がお客様に感謝される姿を見て育ち、高校卒業後に父親に弟子入りしました。「一人前になるには十年くらいかかります。機械で行う工程もありますが、全ての工程で知識と技術が必要になります。一朝一夕では身につきません」。畳職人にとって最も大切な工程は採寸です。「同じ六畳の部屋でも、ミリ単位で部屋の大きさは異なります。畳を作る前にまず部屋を採寸し、計算して畳のサイズを決めるんですよ」。そう言って松井さんは採寸した設計図を見せてくれました。部屋に合わせた畳のサイズが書き込まれており、まるでパズルのようです。丁寧に採寸した後、畳作りがスタートします。

畳は、畳床(たたみどこ)・畳表(たたみおもて)・畳縁(たたみべり)の三つで構成されます。畳床は畳の中側の芯の部分です。昔は藁が主流でしたが、今では軽くて断熱性に優れた発泡スチロールを使うことが多いのだそうです。畳表は主にいぐさを干して織られたものが用いられますが、和紙や化学繊維を使ったものもあります。「琉球表と呼ばれる畳表は、衝撃に強いため柔道場や呉服屋で使われることが多いです。このように、用途によって素材を使い分けるんですよ」と松井さん。畳縁は畳表のほつれを防ぐために取り付けます。お客様の好みはもちろん、お茶室では黒を使うなど、部屋の雰囲気に合わせて選ぶのだそうです。それぞれを専門店から仕入れ、一つの畳にするのが畳職人です。全ての部材を合わせた際に採寸通りの畳になっているということは、同じ部屋に敷いた畳の高さが全て揃っており、畳と畳の間に隙間がないということです。細やかな仕事と長年の経験があってこそなせる技です。

畳縁をつける前に、畳表を揃えます

新しい畳の製作以外にも、畳表の張り替えや裏返しの依頼もあります。その際も一から採寸し、部屋の状態に合わせた畳に直します。

畳は機能面でも非常に優れています。いぐさを使った畳は吸放湿性に優れており、夏はひんやりと涼しく、冬は暖かくなります。消臭力も高く空気を綺麗にする作用もあるため、快適に過ごすことができます。弾力性も高く、音や振動を吸収し、足腰への負担も少なくなります。

畳縁をつける工程

目標は職人を続けること。現状に満足せずより良い畳を作る

松井さんは、大井町のきゅりあんで毎年開催される「伝統の技と味/ しながわ展」や品川区の小学校で体験教室を開催しています。体験教室では畳のオリジナルコースターを作ることができます。普段の仕事と並行して体験教室の準備をすることは大変ですが、今後も続けたいと松井さんは言います。「子供達が楽しそうに作っている姿を見ると嬉しいですし、作り方に性格が出るので見ていて楽しいです。畳の部屋がある家が少なくなっているので、子供達が畳に触れることができる良い機会だと思います」。

体験教室で作ることができるコースター

かつて憧れた父親のように、畳作りや体験教室を通じてたくさんの感謝の言葉をもらう松井さん。最後に、今後の目標や夢についてお伺いしました。「畳職人に大切なのは畳が好きであることと手を抜かないことです。真面目に作った畳をお客様に喜んでもらえるのが何より嬉しいです。だからこそ、畳職人を続けることが今の自分の目標です。これからも一つひとつの仕事を丁寧に、より良い畳を作りたいと思います」。

(古郡 優)

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