想いを伝えて行動すれば、つながりが生まれる。

想いを伝えて行動すれば、つながりが生まれる
地域共創(大崎×五反田LINK独自記事)

「スタジオペーパー」と呼ばれる幅2.7メートルの大きな紙があるのをご存知ですか? 主に人物撮影の背景として使われるロール紙で、1回の撮影に5~7メートルの長さが必要なのだそう。使うたびにカットするので、最終的に3~5mになるとごみとして処分していました。
撮影スタジオ「EASE(イーズ)」を運営する株式会社ペンコミュニケーションの代表取締役・福島澄男さんは、使えなくなった紙を「子どもたちの大きなキャンバスとしてプレゼントしよう」と思いつきます。そこで始めたのが「スタジオペーパーリユースプロジェクト(EASEお絵描き便)」。福島さんに、活動への想いを語っていただきました。

楽しんでくれる人がいるとうれしい


――まずはEASEを始めた経緯を教えてください。

福島さん(以下、福島):私はもともとフリーカメラマンで、フランスのパリへ行っていました。25歳で帰国して、駒沢にスタジオを建てたのですが、日本にないスタジオだったから、ものすごくヒットしたんです。それで、仕事もスタッフもふえて会社にしたのが1983年、30歳の時でした。

――日本にないものとは?

福島:自然光が入るスタジオが当時の日本にはなかったんです。太陽の光で撮影していて急に曇ったりすると、編集する時に画像が合わなくなりますよね。だから、それまでの撮影スタジオは、基本的に真っ暗な箱の中で光を作って撮影していました。

女性が購買する洋服の通販が増えていた時代なので、光をストロボなどで人工的に作ったり、強いメイクのモデルを起用したりするよりもナチュラルなほうが訴求しやすいと思ったんです。自分も暗い場所ではなく気持ちの良い空間にいたいなと。それで、自然採光のスタジオを作りました。

STUDIO EASE

――「スタジオペーパーリユースプロジェクト(以下、プロジェクト)」を思いついたきっかけは?

福島:10年前の東日本大震災の時に、福島県の幼稚園生が外に出られなくて、部屋の中で遊んでいるというニュースを見たのがきっかけです。それと、うちの社員のママさんが、「幼稚園で裏が白いチラシ広告を集めている」と話していて。それを聞いたのも思いついた理由です。

もともとスタジオペーパーは廃棄していたので、子どもたちがこの紙を使って絵を描けるようにしたいと広告業界の知人に相談したのですが、全く動いてもらえず、その時は断念しました。

――あきらめたプロジェクトを再開したのはなぜですか?

福島:大崎第一地域センターの職員さんに、「何か一緒にやりませんか」と声をかけてもらったんです。それで提案してみたら、ペーパーが欲しいという施設を行政のほうで探してくれました。今年の1月から始めて、すでに4~5回活動していますね。

子どもたちがスタジオペーパーに描いた将来なりたいもの

――初回は何本くらいのペーパーが集まりましたか?

福島:4軒のスタジオに協力してもらって10本ほどになりました。その時は10か所の施設に配ったのですが、実際に活動してみたら課題が見えてきて、現在は活動を一旦停止しています。すでに月100本くらい集められる状況だから、声をかけたスタジオさんには申し訳ないのですが。

――どんな課題ですか?

福島:本数がふえたら、私が一軒一軒デリバリーするわけにはいきません。でも、誰かにお願いするとなるとデリバリー料がかかってしまいますよね。

それと、幼稚園や保育園では、クリスマスや卒園式などのイベントがある時しかニーズが発生しないんです。月1本くらいのペースで流通させることを想定していたので、年に2回しか配らないとなると保管場所の問題も出てきます。

以前、私の家で5歳の孫の誕生会をしたんですよ。その時に、1.5メートル幅のスタジオペーパーを壁に貼っておいたら、孫は誕生会そっちのけで絵を描くことに熱中していて。それを見た時に、子どもたちの気持ちのニーズはものすごくあると実感したから、イベント以外の使い方を探らないといけないなと思っています。

例えばですけど、何かテーマを決めて品川区の子どもたちにメッセージを書いてもらうとか。それを壁に貼って見られるようにしたり、写真に撮ってアーカイブにしたりすれば、単なる落書きで終わらない何かになる可能性があります。それともうひとつ、プロジェクトと並行して別の活動もしていました。

――どんな活動ですか?

福島:品川総合福祉センターのロビーをディスプレイしたんです。紹介していただいたのは去年の6月頃でしょうか。コロナ禍で家族の面会も叶わない時でしたから、利用者の笑顔が少なくなっていたんですね。それで、みんなを元気づけたいという想いで、昨年7月と10月に2回、ボランティアでディスプレイをしました。

昨年7月のディスプレイの様子

私の会社はディスプレイ(会場演出)もしているのですが、スタジオペーパーを使ってカラフルな花を作った時は、うちのスタッフたちも力が入ったみたいで一生懸命に作っていました。とてもうれしかったのは、「ふだん部屋から出てこない体の不自由な高齢の女性が、何度も見に来て周りの人と会話をしていた」という感想を施設の職員さんからいただいたことです。

ディスプレイを通じて、きっといろいろなコミュニケーションが生まれたのではないでしょうか。パネルで作った飾りつけの土台になる壁を撤去しないで置いていってほしいと言われましたから。今でも時おり自分たちでディスプレイした写真を送ってくれるのですが、季節に合わせて作った鯉のぼりなどの作品が飾られていて、利用者のみなさんに楽しんでもらえているのかなと思っています。

かっこよく、気持ちよく、おもしろく


――プロジェクトの今後の展望は?

福島:子どもたちが小さな紙に絵を描いてはみ出すと、「だめ」と言われてしまうでしょう? そんなふうに怒られて子ども時代を過ごすのと、大きな紙にのびのび描ける体験をするのとでは、子どもの成長に違いが出てくると思うんです。例えば、物事に対する考え方や捉え方ですね。だから、情操教育にもいいのではないかと考えています。先ほど話したように、絵ではなくメッセージを書くなど、別の有意義な使い方もあるかもしれませんし。

ただ、年に2回くらいしか活用できないとなると問題が出てくるので、今後の展望としては、毎月ペーパーを使って活動してくれる人や施設はないか、影響力のある使い方はないかを改めて考えて、課題を解決してからたくさんの施設に配りたいですね。それと、スタジオ業界もこういった活動に協力できるのはいいことだと思うんです。

――リサイクルの意義もありますよね。

福島:環境問題については20年くらい前から気にしていて、人権団体に継続的に寄付するなどの行動はしていました。現在、2030年までに大きな変化を起こさないと、地球は人間が住める状態ではなくなると言われていますよね。だから、この10年がすごく大事だと思っているんです。

うちの会社に何ができるかを考えると、専門家のような難しい理論ではなく、わかりやすいメッセージで問題を伝えることではないかと。うちはもともと広告業で、商品を消費者にどう伝えるかを考えて形にするのが仕事ですから。

環境問題についても、「かっこよく、気持ちよく、おもしろく」伝えたいと思っています。そうすれば、問題に関心がない人にもメッセージが届いて、興味を持ってもらえますよね。それがきっかけで、問題を知ろうとしたり行動しはじめたりする人もいるかもしれません。だから、そういう媒体になりたいと考えています。

以前ある人に、1900年のニューヨークの街角を撮った写真を見せてもらいました。そうしたら、馬車がずらーっと並んでいるんですね。それが、1913年になると全部自動車になっていて、馬車は1台も走っていません。

これは今の環境問題にもあてはまると思っていて、約10年あれば、良くも悪くも全く違う世界に変化してしまいます。だから、ペーパーのリサイクルだけでなく、今後は別のエコ活動もしていきたいと真剣に考えているところです。

外国の街並みのような「OLD AVENUE」。敷地内ではイベントを開催することも

どんなことも自分事として考える


――行政に期待することは?

福島:私のプロジェクトは、行政の協力があって実現しました。実際に職員さんとやり取りして感じるのは、現状を変えたいという熱い想いで働いている人が増えてきているということ。だから、住民は積極的に、こんなことをやってみたいとアイデアを出したり、想いを伝えたりしてみてもいいのではないでしょうか。

株式会社ペンコミュニケーション/福島澄男代表取締役

物事を良い方向に変えていくのは、ひとりだとなかなか難しいですよね。でも、同じ考えの人が3人くらい集まって声を上げれば、少しずつ変わっていくのではないかと思っています。

行政も住民も、自分たちが何をすればより良くなっていくのかを考えて、行動して、連携する。何事も自分事として捉えれば、小さなことでも気づくはずですから。それができるおもしろい人が増えたらいいなと期待しています。

<プロフィール>
■福島澄男
群馬県太田市出身
多摩美術大学付属多摩芸術学園・映画学科入学
19歳で池袋パルコにて写真展「実相」を開催
日本広告写真家協会副会長(当時)玉井瑞夫氏に師事
その後、吉村則人氏に師事したのち、渡仏
帰国後フリーランスの写真家として広告・雑誌で仕事を始める
1983年に目黒区柿の木坂に日本で初めてのハウススタジオを作る
(PENN Studio 設立)
1989年、写真雑誌「Shinc」を創刊
日本広告写真家協会(APA)正会員
2007年、現在の品川区西五反田に東急電鉄とコラボビルを作り本社とし屋号をEASEとして撮影業界に留まらず事業展開する

(若松 渚)

タイトルとURLをコピーしました