地域のゆるいつながりで、安心して暮らせる街に

地域のゆるいつながりで、安心して暮らせる街に
地域のゆるいつながりで、安心して暮らせる街に
地域共創(大崎×五反田LINK独自記事)

目黒駅前の活性化を目的とする自主グループ「目黒駅前wa-sshoy(ワッショイ)!プロジェクト」のほか、町会の子ども会でも共に活動する洪愛舜(ほん えすん)さんと佐藤美江(さとう よしえ)さん。自身の経験から感じたことをもとに、楽しみながらゆっくりと活動の幅を広げています。お二人が地域活動を始めたきっかけや、そこに込められた想いについて伺いました。

自分の街を好きになれば、自己肯定感が上がる

――そもそも地域活動を始めたきっかけは何だったのですか。

洪さん(以下、洪):私は2009年にこの辺りへ引越してきました。当時は地域活動を全くしていなかったのですが、第一子妊娠中の2011年に東日本大震災が起きました。その時に、妊娠9カ月で大きなお腹を抱えている自分は弱者だと思ったんです。これから子どもが生まれて何かあった時、周りに助けてもらわないといけない。だから自分も誰かを助けられる人になって、いざという時に助け合える関係を作っておきたいと思いました。でも、その時はまだ何をしたらいいのかわかりませんでした。

それから、子どもが生まれてベビーカーで近所を散歩していると、町の掲示板が目に入るようになったんです。「ここの町会がんばっているな」と気付いて、子どもが0歳だった2012年4月に町会の総会に初めて参加しました。年配の方がほとんどでしたが、1組いた親子のお母さんが「子ども会を作りたい」と提案されて意気投合したことで、町会の子ども会を発足しました。

——子ども会を作った後、どんなことをしたのですか。

洪:となりの町会の子ども神輿に参加したり、子ども会主催でハロウィンイベントを開催したりしました。ハロウィンイベントは、初回は仮装した子どもたちがドレメ通りを歩いて地域の大人たちがお菓子を配るという内容だったのですが、2013年の2回目からは企業が協力してくれるようになりました。というのも、子ども会を作ろうと提案した方が、「この辺りにはたくさん企業があるから協力してもらおう」と言ってあちこちに連絡をしてくれたからなんです。

翌年には目黒駅すぐそばにある撮影スタジオEASE(イーズ)を会場にして、EASEの全面協力のもと開催しました。最終的には企業協力が十数社にのぼり、子ども100人の予約がすぐに埋まるような本格的なイベントになりました。

ハロウィンイベント(2015年)

佐藤さん(以下、佐藤):私は2015年の春に越してきたのですが、都会のど真ん中で子ども会がこんなに力を入れていて、しかも周辺の企業を巻き込んでいるなんてすごいなと思いました。私が地域活動を始めたのは、町会の総会で洪さんや子ども会のメンバーに出会ったことがきっかけです。

ちなみに私が入会してからは、ハロウィン以外ですとクリスマス会や新年会、夏の打ち水などをしました。コロナでイベントが何もないと子どもたちがかわいそうなので、屋外イベントのハロウィンは規模を小さくして開催しました。

洪:地域内にあるカトリック目黒教会の日曜学校のクリスマス会や、能楽堂の親子能楽鑑賞会に呼んでいただくこともあります。いろいろな文化に触れられるので、子どもたちはとても良い経験になっているのではないでしょうか。

カトリック目黒教会のクリスマス会(2017年)

——洪さんは『目黒駅前新聞』の活動もされています。目黒駅を中心に半径500メートル圏内の情報を発信するメディアですが、創刊の経緯を教えてください。

洪:先ほど話したハロウィンイベントでは、参加条件を町会の子どもとその友だちにしました。すると、集まった子どもたちは品川区だけでなく、目黒区や港区、渋谷区の子もいたんですね。そもそも目黒駅は品川区ですし、駅周辺は品川区と目黒区で行政が分かれています。ひとつの地域なのにいろいろなつながりのある目黒はおもしろい街だと思いました。

その頃ちょうど、地域メディアが活性化し始めたのですが、品川や目黒の地域メディアに目黒駅周辺が全然出てこないことに気付いたんです。私は目黒ならではのおもしろさを実感していたので、「だったら自分で作ろう」と2015年12月に立ち上げました。

——洪さんはどのような想いで地域情報を発信していますか。

洪:「私たちの街ってすごくおもしろいよね」と街の人同士で共有したいという気持ちで発信しています。この想いをひもといて気付いたのは、自分の街が好きだと自己肯定感が上がるということ。この街が好き、この街に住んでいる自分が好き、この街を選んでくれたママやパパ、おじいちゃんやおばあちゃんが好き、というふうに。

以前、目黒に長く住んでいる方の話を聞きに行ったのですが、その方にとっては目黒が当たり前すぎて「たいした街じゃない」とおっしゃるんです。そういう見方をすれば、確かにいまいちな部分はあるかもしれません。でも、そこに注目するのではなく良いところを見ていけば、自分の街がどんどん好きになるのではないでしょうか。地域情報の発信は、その街に住む自分を肯定することにもつながると考えています。

洪さん(左)と佐藤さん

地域の人とつながって、一緒に楽しんだり助け合ったりしたい

——目黒駅前wa-sshoy!プロジェクト(以下、ワッショイ!プロジェクト)では「目黒駅前100人カイギ」を行っています。「100人カイギ」は全国で開かれていて、地域で働く人などをゲストに呼んで人とのゆるいつながりを作るイベントです。なぜ始めたのですか。

洪:子ども会の活動を続けていましたが、町会内での家族同士のつながりという枠から抜け切れていないと感じていました。そんな時に、EASEを運営する株式会社ペンコミュニケーション代表の福島澄男さんが、「地域活性のために、目黒駅周辺でおもしろい活動をしている人たちのサロンのようなものを作りたい」とおっしゃいました。目黒駅前新聞や子ども会で地域活動をしていた私に相談してくださったんです。

以前から100人カイギというプロジェクトについて「おもしろいな」と思っていたので、「それなら100人カイギの形式でやりませんか?」と福島さんにご提案したところ趣旨に合うということで、EASEを会場にして2019年5月に1回目を開きました。コロナの影響から7回目で止まっていましたが、2022年2月から再開予定です。休止中には過去の出演者をお招きして、2カ月に1回くらいオンラインで開催しました。

目黒駅前100人カイギ(2019年)

——子ども会やワッショイ!プロジェクトの活動を通じて、佐藤さんが感じたことを教えてください。

佐藤:私が子どもの頃は、数カ月に1回は子ども会の行事があったり、登校班で年上の子が小さい子のお世話をしたりしていました。そういった経験から、地域のつながりは大切だと感じていました。洪さんに声をかけていただき100人カイギの運営にも参加するようになったのですが、子ども会から1歩外へ出て地域のいろいろな方と交流できるので、とてもおもしろいなと感じています。

とはいえ、私も含め活動に参加しているみなさんには本業がありますので、忙しくなると大変だと思うこともあります。それでも続けるのはなぜかを考えてみると、やはり「人と人とのつながりを大事にしたい」という想いがあるからなんです。損得ではなく、こういった想いひとつで動くことの大切さを子どもに伝えたいという気持ちもあります。そのためには、口で説明するよりも実際に私の姿を見てもらうのが一番かなと思い活動しています。最近では、中学生の息子が自発的に地域活動のお手伝いをしてくれるようになりました。

——強制ではなく楽しんで活動するお母さんの姿を見ていたんですね。

佐藤:コロナ禍でオンラインが当たり前になって「学校に行く意味あるのかな」と感じている子もいると思いますが、地域活動をする私やみなさんの姿を通して「やっぱり最後は人なんだよ」ということを感じてもらえたらうれしいです。

——ワッショイ!プロジェクトの今後の展望をお聞かせください。

洪:100人カイギは市区町村単位で開かれることがほとんどなのですが、私たちは目黒駅前半径500メートル圏内でゲストをお呼びしています。狭い範囲でやるからには、最終回の頃に周辺の人たちがみんな知り合いになっている、くらいのつながりが作れていたらいいなと思います。

佐藤:その後については、つながりの中で新たにおもしろいことを見つけて、そこから発展させたいと思っています。

——今後、子ども会でやってみたいことはありますか。

洪:先ほど佐藤さんが話していたように、私たちの時代は異年齢の子どもが集まってわーわー言いながら遊んでいました。何かすごいことをしなくても、まずはそういう場があればいいのかなと思っています。

打ち水大作戦(2021年)

それと、駄菓子屋をやりたいんです。駄菓子屋って、その場にいる友だちと話したり、お店の人や近所の大人と交流したり、50円で何が買えるかを計算したりするので、子どもの社会性にも良い影響があると思っています。ゆくゆくは小学生の子どもたちに運営も任せたいですね。場所は地域の人の軒先をお借りして、月に1回くらいできたらいいなと考えています。

佐藤:子ども会で難しいのは、小さい子たちが入ってこないと成立しない点です。子どもはどんどん成長していきますので。だから、次の世代の方たちにも入ってもらえるように間口を広げたいと思っています。楽しいイベントを開くのはもちろん、地震などの有事の際に地域とつながっていると安心するということもアナウンスしていきたいです。

洪:地域のつながりは、会ったらあいさつをする程度でいいと思うんです。子育てをしていると親は大変ですよね。都会だと特に親が孤独になりがちです。子ども会では、何かあった時に助け合えるように顔見知りを作ってもらえたらと思っています。私の子どもは小学生、佐藤さんの子どもは中学生なので、もっと小さい子のママたちの率直なニーズやリアルな声を聞きたいです。自由にアイデアを出せるような子ども会にしていきたいですね。

<プロフィール>

■洪愛舜

大阪府堺市出身。立命館大学理工学部卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集/ライターに。特に育児・教育系の雑誌やwebメディアの企画、構成、取材、執筆や、書籍の編集・執筆に携わる。著書に絵本『すき! I like it!』(教育画劇)など。2011年、第一子出産を機に地域コミュニティの重要性を再確認し、地域での活動を開始。2015年、目黒駅周辺の情報を発信するwebマガジン『目黒駅前新聞』創刊。2019年よりEASE代表福島澄男氏と共同で「目黒駅前100人カイギ」を発足し、現在も運営中。

■佐藤美江

茨城県出身。臨床検査技師として都内大学病院勤務後、結婚出産を経て小児科クリニック勤務。子供の成長行事で着物を着る機会が増えた事で着付けを習い始め、着物の世界へ。吉澤暁子師事。現在東京目黒で着付け教室「着付けサロンてくてくkimono道」主宰。教室運営をしながら、七五三、成人式、展示会やカタログ撮影、テレビ撮影着付けなど着付け師としても活動。EASE福島氏、洪氏と共に地域活動を行っている。

(若松 渚)

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