サッカーをしながら防災について学ぶ

サッカーをしながら防災について学ぶ
サッカーをしながら防災について学ぶ
地域共創(大崎×五反田LINK独自記事)

―大崎第一地区防災協議会主催「サッカー防災教室」開催レポート―

多くの災害が発生している近年、防災への取り組みが必要だと感じている方も多いのではないでしょうか。品川区では町会・自治会で組織された防災協議会が主体となり防災訓練を行っていますが、2021年11月21日に開催された大崎第一地区防災協議会主催のイベントでは目黒区の企業「HITOTOWA(ヒトトワ)」が企画運営を担当。元サッカー日本代表の石川直宏さんをゲストに迎えた「サッカー防災教室」と地域の防災訓練を組み合わせた同地区初のイベントに、地域の親子が多数参加しました。今回はイベントレポートをお届けします。

サッカーと防災で大切なのは「準備と協力」

品川区立第三日野小学校の校庭で開催された1回目のイベント(2022年1月23日開催予定の2回目「地震ザブトン体験+在宅避難者ワークショップ」は新型コロナウイルス感染症対策のため中止)。受付開始の午前9時になると参加者が続々と集まってきました。この日は、5歳から小学6年生までの子ども33人と保護者29人の計62人が参加。あいにくの曇り空ではありましたが、子どもたちは待ちきれずに校庭でボールを蹴るなど元気な様子です。

午前9時半。参加者全員が校庭に集まり開会式が始まりました。主催の大崎第一地区防災協議会(以下、防災協議会)会長の長谷川岱潤(たいじゅん)さんは、「この地区で初となるサッカー防災教室を開催します。とても楽しみです」と笑顔であいさつしました。

イベント開始前のインタビューで長谷川さんは、「災害時にみんなで助け合うため日頃から地域のつながりを大切にしてほしい」と話し、「コロナで人との距離が遠くなりましたが周りの人に目を配る優しい心を忘れないで」と呼び掛けました。

大崎第一地区防災協議会会長の長谷川さん

ゲストの石川直宏さんは現在、FC東京クラブコミュニケーターのほか、メディア出演や講演などで幅広く活動中です。

元サッカー日本代表の石川さん

石川さんがあいさつの中で「サッカーと防災で共通する大切なことが二つある」と話すと、子どもたちからは「集中すること」「全力でがんばること」などの声が上がりました。石川さんは「一つは準備すること」「もう一つは協力すること」と指摘し、「防災の本番はいつ来るかわからないからこそ準備が必要」と語りました。

ピンク色のゼッケンベストを身に着けた防災協議会のみなさん。今回はイベントのお手伝いを通じて、地域住民である参加者と交流します。

まずは6チームに分かれて自己紹介タイム。各チームに1人ずつHITOTOWAスタッフがサポートに入り、いよいよサッカー防災教室の始まりです。

「サッカー防災」は、サッカーの要素を取り入れた「ディフェンス・アクション」というゲームをしながら防災について学べる同社のオリジナルプログラム。最初に行う「ファースト・アクション」では、校庭をジョギングやウォーキングで回り、スタッフがパネルを掲げたら、それに合わせた初期行動をとります。

例えば「地震」なら頭・首・手首を隠してその場にしゃがむ、「火災」なら鼻と口をふさぎ姿勢を低くして校庭の外に出る、「津波」なら反対側のコートへ全力でダッシュするという具合です。

緊張気味だった子どもたちは体を動かすと次第にリラックス。適切な初期行動をとりながらも、笑ったり声を上げたりして楽しんでいました。

司会進行役を務めた同社チーフプランナーの鳥山あゆ美さんは、「マンションが多い大崎第一地区ですが、地震が起きたらエレベーターには乗らないようにしましょう」と説明。「もし乗っていたら全部の階のボタンを押して、まずは外に出るようにしてください」と注意点を補足しました。続いては、子どもたちお待ちかねの石川さんによる「ゲストトレーニング」です。

「サッカーも防災もコミュニケーションが大事」と話す石川さん。そこでまずは、向かい側にいる相手に「せーの」と言って息を合わせて、ボールを持ったまま同時に走ってすれ違います。

次は声を出さずに、手を上げるなどの合図で同じことをしました。5万人収容の大きなスタジアムでは、チームメイトの声は聞こえないそうです。さらに今度はすれ違いざまに相手をかわし、ぐるっと回って進みます。

石川さんの指導とあって真剣な表情で取り組む子どもたち。保護者のみなさんも集中してトレーニングしていました。続いては、ドリブルとパスの練習です。上手なパスのコツは、出したいところを見てからまっすぐに足を引き、ボールの中心を押し出すことだそう。

最後のトレーニングでは、しりとりをしながらパスを出します。考えることとボールを蹴ることを同時にするので動きが止まってしまう人もいましたが、石川さんは「どんな状況でも動けるよう練習することが大事」とアドバイスしました。

在宅避難が基本のマンションでは、備蓄品を多めに備える

続いては、ディフェンス・アクションのもう一つのゲーム「パス・ストック」。備蓄品を言いながら対面パスを出し、回答数の多いチームが勝つというルールです。まずは、「東京防災」を使用したカードを見て、みんなで備蓄品を覚えます。

子どもたちはたくさんある備蓄品をしっかり覚え、大きな声で言いながらボールを蹴っていました。司会の鳥山さんはゲーム後、「マンションは在宅避難が多いので、備蓄品を1週間分くらい用意しましょう」と多めに備えるよう呼び掛けました。

閉会式の前には、品川区役所に今年導入されたドローンを区民に初お披露目。200倍までズーム可能で悪天候でも撮影できるそうです。災害時には区役所で撮影画像を見ることができます。

通常は150~200メートルの高さを飛びますが、今回は上空30メートルまで飛ばして記念撮影を行いました。

防災に力を入れている町会(西五反田谷山会)の会長・飛内秀光さんは閉会式で、「町会に入れば災害時に助け合えるのはもちろん、普段からいろいろなコミュニケーションが取れます」と語り掛け、地域でつながる重要性について訴えました。

西五反田谷山会会長の飛内さん

その後、子どもたちはスタンプラリー形式の防災訓練に参加。全ての訓練に参加してスタンプを3つ押してもらうと参加賞がもらえます。品川消防署五反田出張所職員の説明や指導のもと、子どもたちは積極的に訓練に取り組みました。

消火器体験
防災VR体験
AED訓練

イベントに参加した小学3年生の古山大晃(ふるやま ひろあき)君は、「防災の備蓄品には意外なものがあると思った」と話し、「チョコレート、使い捨てカイロ、調味料」と先ほど覚えたものを教えてくれました。大晃君のお母さんは、「とっさの動きがきちんと取れている子どもの姿を確認できて安心」したそうです。

大晃君(中央)とお母さん
参加賞の受け渡し

大切なものを守ることが防災の目的

イベント終了後のインタビューで鳥山さんは、「サッカーを取り入れることで、普段は防災と接点のない人にも参加してもらえました」と手応えを話すと同時に、「地域のみなさんの協力があったことも参加者に伝わったと思います」と語りました。

「サッカー防災」は、同社設立3カ月後に起きた東日本大震災がきっかけで生まれたプログラム。当初はチャリティーイベントを開催して金銭的支援を行っていましたが、「都市の社会環境問題の解決」をビジョンに掲げる同社代表・荒昌史さんは「被災地のために役立つ別の方法もあるのではないか」と考え、スポーツの力を取り入れることを思い付いたそうです。

HITOTOWAチーフプランナーの鳥山さん

鳥山さんは、「自分や家族、家などの大切なものを守ることが防災の目的」と話します。「ストックの電池や冷蔵庫にあるものは災害時にも活用できます。実はすでに用意できていることもあるはずなので、家の中のものをまずは確認してみるなど、気軽に取り組んでみることから始めてほしい」と呼び掛けました。

最後に、地域活動や人とのつながりについて、ゲストの石川さんに話を伺いました。選手時代に在籍し、現在はクラブコミュニケーターを務めるFC東京の地域密着型活動について、「地域の価値や課題がわかるだけでなく、サッカーに興味を持ってもらうきっかけにもなる」と話し、地域活動が新たな可能性をもたらすと考えています。

また、「地域とサッカーには共通することが多い」と話す石川さん。「サッカーはチームメイトやファンのみなさんなど、人と人とのつながりで成り立っています。全体を考えることはもちろん大事ですが、自分の想いを伝えるからこそつながりは生まれます。その時に大切なのは、思いやりを持ってコミュニケーションを図ること。地域もサッカーも同じではないでしょうか」と語りました。

この記事をきっかけに、みなさんもぜひ防災への取り組みを始めたり、安心して暮らせる地域について考えたりしてみてください。

(若松 渚)

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