地域の中で、さりげない光を放ち続ける。

地域の中で、さりげない光を放ち続ける。
地域共創(大崎×五反田LINK独自記事)

品川区の指定を受けて運営する地域密着型多機能ホーム「東五反田倶楽部」。認知症の人が住むグループホームと、「通い・泊まり・訪問」を組み合わせて利用する小規模多機能型居宅介護のサービスを提供しています。介護職にとどまらず、地域をつなぐさまざまな取り組みを行う施設長の鈴木裕太さんにお話を伺いました。

必要を感じたらすぐに行動する

ーー地域との関わりが大切だと思ったきっかけを教えてください。

鈴木さん(以下、鈴木):認知症をよく知らない人は、認知症に対して、徘徊、大声を出す、暴力を振るうなどのイメージを持っていると思うんです。過去に出会った認知症の人は家で暮らすことを希望していましたが、近隣住民から「問題行動を起こしたらどうするんだ」と言われて施設に入居させられました。

認知症には物忘れ、同じことを繰り返し言うなどの症状はありますが、周りとの適切な関わりがあれば問題行動は解消されます。認知症の人と地域住民が日頃から接していたら、「認知症は特別なことではない」とわかってもらえたのではないかと思うんです。

私たちも無理やり何かをやらされたら、大声を出したり手を払ったりしますよね。でも、認知症の人がそれをすると、問題行動があるからと向精神薬を飲まされてしまう場合があります。そうすると廃用性症候群などで体がどんどん衰えて、家にいる時よりも死が近くなるかもしれないわけです。先ほどの人も家にいたらもっと長生きできたのではと、私はとても悔しい思いをしました。

事業所だけが頑張ればなんとかなるのではなく、地域の人たちの正しい理解と相互関係がなければ支えられないと実感した出来事です。

社会福祉法人新生寿会品川区立地域密着型多機能ホーム東五反田倶楽部/鈴木裕太施設長

ーー鈴木さんは現在、町会の役員もされていますよね。

鈴木:16年くらい前にいた別の区の施設では、立ち上げから約3年は地域とつながりを持てませんでした。当時は、デイサービス中に買い物に行ったらいけないとか理解が浅い時代だったこともあります。

でも、施設の入居者さんが地域のお祭りや催し物に参加すると、「あの人は今どうしているの?」とかいろんな話をしていました。地域密着型の施設だからというのはありますが、入居者さんにとっては、私たちよりも地域の人たちのほうが知りたい情報を知っているんですよね。

私たちには見せないような笑顔で話している入居者さんを見た時に、地域とつながる必要性を感じて、すぐに町会に入りたいと言いに行きました。そういった経験もあり、平成29年5月にこの施設がオープンした時も、まずは地域に入っていこうと思ったんです。今は町会でイベント担当をしています。

ーー現在の町会に入会した後、どんなことをしましたか?

鈴木:私はこの地域のことを全く知らなかったので、まずは町会の人たちにいろいろ教えてもらいました。地区内に雉子神社があるのですが、40年くらい前は周辺に縁日がたくさん並んで、すごく活気があってにぎやかだったそうなんです。当時は町会でも子ども祭りをやっていましたが、今は高齢化などの理由で開催していませんでした。

それと、新しいマンションがどんどん建って新たに人が増えているのに、どんな人が住んでいるかわからなくて困っていると。「本当は昔みたいに活気のある地域にしたい」という声を聞いて、夏祭りを復活させようと提案したんです。町会と施設で意見を出し合って、3カ月後の8月に1回目を開催しました。

あいおい夏祭り

ーーものすごく盛り上がったそうですね。

鈴木:町会や近隣住民にボランティアを募ったり、ほかの事業所に声をかけて協力してもらったりしました。準備していた焼きそば400食が約1時間半で売り切れて追加したんですよ。総勢7~800人くらいの人たちが来てくれて、町会の人たちは「やればできるんだ」と実感したのではないでしょうか。

ーー地域住民にとってもうれしいですよね。

鈴木:そうなんです。町会が地域の人たちを知らないように、地域住民も町会が何をやっているのかよくわからないんです。こういった機会が顔を合わせるきっかけになりますし、町会の人たちも気持ちを込めていますので、お互いにとってうれしいことだと思います。

その後、となりのマンションに住む人たちから、施設の地域交流スペースを使ってボランティアで食堂をしたいと相談がありました。話し合いを重ねた結果、地域で困っている人なら誰でも足を運べる地域食堂にしようということになり、「東五反田食堂」と名前を付けました。

両親が共働きの子どもや一人暮らしの高齢者、認知症の家族など、さまざまな困ったを抱えた人たちが自由に参加できます。

食堂は月に1度開催していたのですが、参加していた一人暮らしの人たちから「もう1回くらいみんなで顔を合わせて話す機会がほしい」と言われました。そこで始めたのが認知症カフェです。公開講座をしたり、認知症の人に無理に話をさせたりというのではなく、困った時は私たちがいるから自由に過ごしてくださいねというスタンスでやっています。

さらに、食堂に来る子どもたちからは、ごはんの後に「お菓子ちょうだい」と言われました。「駄菓子屋で買っておいで」と何げなく言ったら、子どもたちは駄菓子屋を知らなかったんです。その場に町会長がいたので聞いてみると、この地域には昔からなかったみたいで。それなら駄菓子屋をやろうと、3日で準備して始めました。

ーーすごい行動力ですね。

鈴木:リビングの片隅で小さく始めたのですが、実際にやってみると認知症の人が接客をしたり、そろばんをはじいたりと役割を見つけて、子どもたちとの交流が生まれました。認知症の人とふれあうことは子どもにとっても良い経験ですよね。ふだんは同じことを何度も話すおじいちゃんだけど、そろばんをはじく姿はかっこいいとか、実際に接してみないとわからないことですから。

さまざまな業界が連携して取り組む地域づくり

ーー「ファーム・エイド東五反田」について教えてください。

鈴木:この地域には病院、薬局、大学、福祉事業所などいろいろな施設があるので、専門職同士で横のつながりを持ちたいと考えていたんです。病院と連携する必要性を特に感じていた時、ファーム・エイドを行っている団体が、「病院と地域がつながる催し物を一緒にやりませんか」と町会長に声をかけました。病院側は、町会主体のイベントに協力する程度であれば参加できると言ってくれたみたいで。

ファーム・エイド東五反田を立ち上げる際に大切にしたのは、福祉、介護、医療などの多職種が連携し、さらに地域とつながること。元々ファーム・エイドにはマルシェ(商品販売)、フォーラム(意見交換)、メッセ(体験交流)の3本柱があるのですが、東五反田版では、地方物産の販売だけでなく福祉作業所の商品を出したり、認知症当事者の講演会を開いたり、お菓子を薬に見立てて子どもに分包体験をしてもらったりしました。

ファーム・エイド東五反田の取り組みは「認知症とともに生きるまち大賞」の本賞を受賞

イベントの準備段階では、さまざまな職種の人たちが月に1回集まって、ざっくばらんに話し合う場を持ちました。顔の見える関係性を作れば、今までつながりのなかった地域の人たちにも「ちょっと助けてもらえませんか」と言いやすくなりますよね。その点、ファーム・エイドは非常に重要なきっかけ作りになったと思います。

ーー鈴木さんが考える住みやすい地域とは?

鈴木:人それぞれの生活があるので断定的には言えませんが、顔の見える関係性はやはり必要だと考えています。ですが、昔のように「向こう三軒両隣」まで知っている社会が良いとは考えていません。そのことで生きづらさを感じる人もいますから。でも、何かあった時に支え合える関係、困ったらここへ行けばいいと思える場所はあってもいいですよね。

認知症に関して言えば、「地域の人たちに認知症を理解させたい」と押し付けるような気持ちは全くなくて、ふとした時に何かを感じてもらえるような、さりげない発信をしたいと考えているんです。相手にとって必要なことなら、情報を気に留めたり、問い合わせをしたりすると思いますので。

施設の入り口のそばにある池は、コロナの後に作りました。先ほど話した地域食堂、認知症カフェ、駄菓子屋は現在お休み中なので、地域の人たちに少しでも施設に関心を持ってもらえたらという想いからです。

池に金魚が泳いでいたら、子どもたちはそれを見るために立ち止まりますよね。そうすれば、「この建物は何だろう」と親子で気になると思うんです。そして、そこから交流が生まれるかもしれません。コロナだから何もできないと考えるのではなく、だったら外を交流の場にしてしまおうと発想を転換しました。

私としては、光を放ち続けられたらいいなと思っています。必要としている人のタイミングで光を拾ってもらえれば。ただ、光を求めている人がそれを探せないというのは困ります。ですので、光を放つ回数はなるべく多く、さまざまな機会を作りたいと考えています。

<プロフィール>
■鈴木裕太
平成14年3月 江戸川大学総合福祉専門学校卒業
平成14年7月 ジロール神田佐久間町(新規開設事業所)入職
        認知症対応型共同生活介護へ配属
平成15年4月 認知症対応型通所介護へ異動    
平成17年4月 認知症対応型通所介護のユニットリーダーに就く
平成22年6月 ジロール麹町(新規オープン)異動
        小規模多機能型居宅介護
        認知症対応型共同生活介護の管理者に就く
平成29年5月 東五反田倶楽部(新規オープン)異動
        小規模多機能型居宅介護
        認知症対応型共同生活介護の施設長に就く
平成30年   認知症介護指導者
平成31年   認知症地域支援推進員

(若松 渚)

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