地域活動を通じて、未来の森を守りたい

地域活動を通じて、未来の森を守りたい
地域共創(大崎×五反田LINK独自記事)

明治時代に桶屋として創業した池田元一商店(品川区戸越)。現在は木材の流通、建築、リフォームなどの事業を展開しているほか、ウッドコミュニケーション事業部では森を守る取り組みを行っています。今回は、四代目となる代表取締役の池田浩康さんと妻で取締役の三和子さんに、森への想いや地域での活動について語っていただきました。

荒れ果てた山を見て、何もできていない自分に気付いた

——森を守る取り組みを始めたきっかけを教えてください。

池田浩康さん(以下、浩康):私は会社を引き継ぐ前、勉強のために仕入先企業へ入って5年間働きました。そこで知り合った人の提案で住まいに関する勉強会を始めたのですが、参加していた商社の方が「環境破壊に加担しているのは、外国産の木材を使って国産材を使わない自分たちではないか」と話し、会社を退職して里山の保全などを行うNPO法人を立ち上げたんです。その後、久しぶりに再会する機会がありいろいろな話をした流れで、その方が活動する東京都青梅市の森へ行ってみることになりました。今から15年くらい前ですね。

当時小学生だった娘2人を連れて家族4人で山の現状を見たこと。それが私たちの活動の始まりだと思います。手入れされている山とそうでない山との違いは一目瞭然でした。森には水をきれいにする働きがあり、都会に住む私たちも恩恵を享受しているのに何もできていない。そのことに気付き、何か行動を起こさなければと思いました。

私はその頃PTAの父親クラブで会長をしていたので、小学校で開催したイベントで木っ端を提供してみました。「自由に何かを作ってください」という趣旨で山盛りに置いただけでしたが、子どもと一緒にお父さんたちも夢中で工作している姿を見て、こういう貢献の仕方もあるとわかったんです。材木屋を経営している私にとって端材はただのごみでしたが、日常的に木と触れ合う機会がない人には喜んでもらえるのだと実感しました。

——大崎では毎年10月に、地元の人や地域のお店、企業などがつながるイベント「しながわ夢さん橋」が開催されます。池田元一商店も出店していますね。

浩康:イベントを主催している方に以前から「参加してほしい」と言われていたのですが、黒子のような存在である材木屋が提供するものはないと思っていました。でも、父親クラブの経験から木っ端で遊んでもらうことならできると思い2015年に初出店したんです。結果的にはものすごい反響で、「子どもたちの遊び場所を作ってくれてありがとう」と言っていただきました。それからは毎年出ています。

——ウッドコミュニケーション事業部を立ち上げた経緯は?

池田三和子さん(以下、三和子):私は2016年に大学でリカレント教育を受けました。その時の学びの中で、私たちがやっていることに名前を付ければ、もっとたくさんの方にアピールできるのではないかと気付きました。

お菓子教室を開きたいというクラスメイトの女性が、自分のやりたいことを「スイーツコミュニケーション」という言葉で説明したんです。お菓子の作り方を教えるだけでなく、ケーキやお菓子を通じて人とのコミュニケーションを広げたり、子どもの教育になるようなことを伝えたりしたいという想いが込められていました。その話を聞いて「私にとっては『木』だな」とピンと来たので、「ウッドコミュニケーション」という言葉を使ってもいいかと彼女に確認したらOKしてくれました。社長も「それいいね」と賛同してくれて。

私はこの会社で総務と経理を約20年担当していますが、2016年からは「ウッドコミュニケーション事業担当」と名刺にも入れています。この会社は約100年間、木を真ん中にしてこの地で事業をしてきましたし、私たちは地元で子育てもしました。今までやってきたことの点と点、人と人を結び付けられるのではないかと考え、今もそれを名乗りながら活動しています。

——ウッドコミュニケーション事業部では、しながわ夢さん橋以外にどんな活動をしていますか。

浩康:品川区商店街連合会(以下、品川区商連)が2016年から開催している「東京の森あそび木づかいツアー」に協力しています。弊社が付き合っている青梅成木の中島林業さんの森に入って間伐体験をしたり、品川区内で東京の木を活用したワークショップをしたりするイベントです。

ワークショップで時計を作る様子

三和子:中島林業さんの山は日頃から手を入れています。間伐している山と全く手入れされていない暗い森を子どもと保護者に体感してもらうんです。山を放置して治水ができなくなると水の循環にも影響がありますから、都会に住む私たちにとっても他人事ではありません。環境保全についても学べる内容になっています。

浩康:植林した木は、70~100年くらいで材料として出すという循環ができていました。ですが、海外産の安い材料を使うようになったり、林業に携わる人がいなくなったりしたことで山が放置され、産業として成り立たなくなった上に国土を守れないという状況になってしまいました。

人工林は田畑と同じで手入れが必要です。人間が自分たちの都合でスギとヒノキを植えた挙句に放置して山が荒れてしまいました。人間が山に手を入れたなら、森林事業をやり続けなければいけないのです。少しでも元の状態に戻していくために必要なのは、林業の人たちがきちんと生活できるよう山にお金を還元することだと考えています。

2021年ツアーの様子

ウッドコミュニケーションで、さらに広がる世界

——「森の出口」について教えてください。

浩康:都会に住む人に木と触れ合う機会を提供したり、森を守る取り組みを行ったりする自分たちの役割を「森の出口」と表現しています。山にお金を還元することも「森の出口」の大きな役割の一つです。それで言うと、ウッドコミュニケーション事業部で史上最大の売り上げになったのが「品川区通行手形」。協賛店で利用すると特典が受けられるというもので、品川区商連の依頼で弊社が所属する新東京木材商業協同組合品川支部と協力して作りました。品川区と交流のある神奈川県山北町と青梅の間伐材を使っています。

キャンペーンは終了しています

三和子:私の場合は、地域での子育てから発展した活動が多いですね。しながわ区民公園と北浜公園には「こども冒険ひろば」という泥んこになって遊べる場所があります。そこで遊ぶ時の子どもの笑顔がとても良いので、子育て中の15~20年ほど前によく連れて行っていました。それがきっかけで管理運営している「NPO法人ふれあいの家―おばちゃんち」のスタッフの方とつながりができて、子どもが大きくなった今でも端材を提供するなどしています。

あとは、新宿区にある東京おもちゃ美術館内で展開している「赤ちゃん木育ひろば」から、木のおもちゃを寄贈されたことがきっかけとなり、2018年には仲間と「しながわ木育ネットワーク」を立ち上げました。品川区内の子育て情報がわかるイベント「品川子育てメッセ」では、来場した子どもたちに木のおもちゃで遊んでもらうという活動をしています。森について考えるきっかけになればと、「木のおもちゃは環境保全にも役立っているんだよ」という話も織り交ぜています。木には温もりがありますから、お母さんたちに癒されてほしいという想いもありますね。

2021年はオンラインで行われました

浩康:ほかにも、八潮の「NPO法人八潮ハーモニー」に端材やおがくずを提供しています。おがくずで言うと、千代田区にある神田明神の神馬のベッドは、弊社が提供したおがくずなんですよ。

三和子:それと、会社の外に「積み木1個100円でお作りします」と看板を出しているのですが、月に2組くらいは飛び込みでいらっしゃいます。

浩康:ウッドコミュニケーション事業を始めたことで、幅広い方たちとお付き合いできるようになりました。

——浩康さんは青少年対策地区委員会の活動もされているそうですね。

浩康:私は小学校のPTA会長をしていたので、その流れで地区委員会の委員になりました。今は町会の副会長もしていますが、地区委員会や町会で一番大事なのは防災だと思っています。有事の際に、お互いの顔を知っているか知らないかは大きな要素ではないでしょうか。

例えば避難所に集まった時、知らない人同士がお互いに様子を見ながら動くのと、知っている人がいてすぐに合議して動けるのとでは、状況や安心感が全然違うと思うんです。学校は指定の避難場所になっているなど地区の事業ともつながっているので、地区委員会や町会で人が集まる機会を作り、日頃からコミュニケーションを取っておくのは大切なことだと考えています。

私は地区委員会や町会、PTAの場で商売の話はしませんが、先ほど話した夢さん橋のイベントで皆さんに会った時には、自分のやっていることを伝えています。私が店頭に立ち続けることで会社のPRができるのはもちろんですが、地域の人と話をしたり、木っ端を使った社会貢献ができたりするので、それがいいなと思っています。会社の事業内容や想いを地元の方にもわかっていただき、少しずつ地域に根付いてきたのかなと実感しているところです。

しながわ夢さん橋で知り合った羽田麦酒が作ったサクラ、ヒノキ、スギのリキュール。中島林業が葉や枝を提供したのだそう

未来のために、環境学習を実現したい

——今後の展望についてお聞かせください。

浩康:子どもたちを森へ連れて行って体感してもらう環境学習を実現したいです。昨年すでに、小学校と地区委員会へ提案書を出しました。今は品川区商連がツアーを主催してくれていて、これからも開催していくそうですが、「ぜひ次の段階へ進んでもらいたい」と言っていただいています。子どもたちには森や国土について考えてほしいですし、将来一人でも多くの人が森を守るアクションを起こすことを願っています。時間はかかるかもしれませんが、品川区で取り組んでほしいことの一つです。

三和子:私は、何かコンテンツを考えて提案できたらと思っています。それと同時に、私たちだけでは見ている世界が限られるので、例えばITの方ですとかジャンルの違う方にも興味を持っていただき、何か新しいことをしたり私たちの持っているものを提供したりしたいです。

浩康:品川区商連やしながわ観光協会の方、最近ですと5月1日にオープン予定の「エコルとごし」の方など、品川区で活躍する人たちに木に関することで声を掛けていただく機会が増えました。木を真ん中にしたコミュニケーションは、まさにウッドコミュニケーションですよね。本当にうれしく感じています。

<プロフィール>

■池田浩康

大学卒業後、家業木材流通事業継承修練の為、仕入先住宅資材問屋に勤務。
27歳より当社にて木材流通と販路拡大の為に工事請負業を始める。二級建築士取得。
一般からのリフォーム工事請負を始める。
区立小学校PTAで、子供たちが木に触れる機会を提供する。
青梅成木の林業で環境保全、環境学習を体験、自身近辺への啓蒙活動を始める。
しながわ夢さん橋、商店街連合会、木育などの活動に参加し、ウッドコミュニケーション「森の出口」を継続的に行う基盤を作る。

(若松 渚)


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