品川区に今も残る伝統工芸(草木染手機織物)

正しい情報発信と相談できる場をつくり、アレルギー疾患のある方が自分らしく生活できる社会を目指す。
第168号(2023.12.20発行)

木の皮、葉、花などの天然染料を用いる「草木染め」。染められた糸を「手機(てばた)」で丁寧に織ると、暖かみのある色合いの作品ができあがります。今回は、草木染め手機織作家の藤山千春さんと娘の優子さんにお話を伺いました。

二度と同じ色は出せない。草木が織りなす世界に一つだけの作品

千春さんの母親は伊豆諸島の青ヶ島出身です。「幼少期はよく八丈島の叔父の家まで遊びに行きました。八丈島には有名な織元(織物の製造元)があり、織物は身近な存在でした」と千春さんは当時を振り返ります。美術大学に進学し、卒業後は染織家の柳悦孝氏に師事。独立後は品川区に「錦霞染織工房(きんかせんしょくこうぼう)」を立ち上げました。工房には手機があるのはもちろん、草木染めに使用する植物が育てられており、糸の染色も行われます。

藤山千春さん(左)と優子さん(右)

草木染めは素材となる植物の配合や染料を煮出す時間、糸に対する染料の割合など、技術と経験が必要とされる工程が続きます。最終的に糸がどのような色になるか、染めてみないとわからないそうです。「化学染料と違い、前回と同じように染めた糸でも、全く同じ色にはなりません。その都度工夫しながら色を出すのが草木染めの面白いところです」。

染めた糸でまずは縦糸を織り、「杼(ひ)」と呼ばれる道具を使い横糸で模様を表現します。

縦糸の間を通して織るための杼(ひ)

「機械で織ることもできますが、織るスピードや強弱が均一なため、複雑な模様を織ると生地が縒れてしまうことがあります。手機織りでは模様によって糸を通す強弱を変えて織るため、繊細な模様を表現することができます」と手機織りの実演をしてくださいました。トントン、パタンという明るく温もりのある手機の音を聞くと、どこか懐かしい気持ちになります。

作品を織る藤山千春さん

美しい色彩と繊細な模様は、着るものの魅力を引き立たせる

千春さんの代表作といえば「吉野間道(よしのかんどう)」と呼ばれる模様で織られた帯です。間道とは縞模様のことを指し、桐箱の紐や帯締めなどに使われる「真田紐(さなだひも)」が布地にそのまま織り込まれているような模様が特徴です。綺麗な膨らみを出すためには、手機で丁寧に織る必要があります。「帯の作品が多いのは、同じ着物でも帯の合わせ方次第で雰囲気を変えることができるからです。帯を変えるだけで、何通りものコーディネートを楽しむことができるんですよ。作品作りの際に大切にしていることは、着るものを引き立てる帯かどうか。顔馴染みが良く合わせやすい帯であることを心がけています」。千春さんは事前に図案を描くことがありません。その時のイメージで織りながら糸を組み合わせるのだそうです。娘の優子さんは「母の色使いは唯一無二だと思います。母の色彩センスと数多くの作品を手がけた経験を、側で学んで習得したいです」と話します。

吉野間道の帯地

催事会場にいる方のコーディネートから着想を得て、作品の参考にすることもあるそうです。「その時代の流行や文化を取り入れることが、伝統を継承することだと思います」と優子さん。こうして技術の継承と文化の融合を繰り返し、伝統工芸は受け継がれていきます。

(編集委員 古郡)

タイトルとURLをコピーしました