品川区に今も残る伝統工芸(江戸すだれ)

品川区に今も残る伝統工芸(江戸すだれ)
第167号(2023.10.20発行)

例年に比べ特に暑かった今年の夏、暑さ対策にすだれを活用された方もいらっしゃるのではないでしょうか。夏の風物詩であるすだれですが、最近は季節に関係なくインテリアとして楽しむ方が増えているようです。今回は江戸すだれ職人の鈴木祐二さんに、すだれの魅力についてお伺いました。

四代に渡り受け継いだ、江戸すだれの技術

すだれが一般的に使われるようになったのは江戸時代から。それまでは貴族など身分の高い人が使っており、庶民には浸透していませんでした。(身分の高い人の姿を見ないように「御簾(みす)」と呼ばれる縁のある高級なすだれを隔てて話す光景は、テレビなどで観たことがあるのではないでしょうか)。すだれは、「内掛けすだれ」と呼ばれる屋内で使用するものと、屋外で使用する「外掛けすだれ」で用途や作り方が異なります。「内掛けすだれ」は遮光やインテリア、仕切りとして、「外掛けすだれ」は風通しを保ちながら遮光や目隠しとして使うことができます。


鈴木さんは、大正二年創業の「鈴松商店」の四代目。素材の選定から製作まで一貫して行う、江戸すだれの職人です。高校卒業後に職人の道へと進むことを決めました。まずは素材について勉強し、その後、編み方を習いました。一人前になるまでには六、七年ほどかかったそうです。

素材によって異なる色や風合い

すだれは「手編み」「機械編み」の二種類があり、鈴木さんは主に「手編み」で製作します。「すだれを掛けてしばらく経つと重力の影響で糸が少し伸びてしまうのですが、手編みと機械編みでは伸び方が異なります。手編みは素材によって力加減を変えながら編むため、糸が均一に伸び、多少の伸びであれば使用に支障はありません。機械編みは力加減の調整ができないため、糸の伸び方がその箇所によって異なり、同じすだれの右側と左側で長さが変わってしまう、なんてこともあります。ただ、室内用の細い素材を使ったすだれは手編みの力では折れてしまうため、機械編みの方が綺麗に仕上がります。素材によって使い分けるんです」と鈴木さん。

手編みの際は「投げ玉」と呼ばれる重りに糸を巻きつけ、前後に交差させることで一列ずつすだれを編みます。投げ玉を交差させる際の力加減で、系の締まり具合が決まるのです。投げ玉が編み台の竹に当たる「カン、カン」という高音がリズミカルに響きます。
すだれには、竹、萩、葦(よし)、御形(ごぎょう)、代萩(だいはぎ)などの天然素材を使い、用途や設置場所の雰囲気によって使い分けます。同じ素材でも形や節が異なるため、組み合わせや糸の力加減によって全体のバランスを整えながら一張りのすだれを製作します。まさに職人技です。

手編みの様子

色や素材で選ぶもよし。インテリアとしても楽しめる

鈴木さんはすだれの作り置きはしておらず、注文ごとに用途や場所に合わせて丁寧に製作します。「長さが1センチ違うだけで、景色の見え方や雰囲気がガラッと変わります。素材、色を決めるときも、実際に使うシーンを想像し、その方の生活に溶け込むようなすだれを作ることを大切にしています」。

すだれを掛けられる場所がない家も多いですが、うまく生活に取り入れる方法はあるのでしょうか。「海外の方は、天井に貼ったり、ポスターのように壁に飾る方もいらっしゃいます。発想が自由で面白い!と感心してしまいました。すだれは窓付近に掛けるもの、仕切りに使うもの…ということは気にせず、インテリアとしても楽しむ方が増えていると感じます。用途は気にせず、色や素材でお気に入りの一張りを選ぶのも楽しいと思います。すだれは透け感があって涼しげに見える一方で、天然素材ならではの温かさも感じることができますよ。季節に関係なく、すだれのある生活を楽しんでもらえると嬉しいです」。

鈴松商店の鈴木祐二さん

(編集委員 古郡)

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