品川区に今も残る伝統工芸(陶芸)

品川区に今も残る伝統工芸(陶芸)
第165号(2023.6.20発行)

お皿、マグカップ、茶器、花瓶…皆さんは、普段お使いの陶磁器をどのように選んでいますか?毎日使うもの、毎日目にするものだからこそ、こだわりがある方も多いのではないでしょうか。今回は品川区生まれ品川区育ちの陶芸家、島村ひかりさんにお話を伺いました。

陶芸体験の”ときめき”が、決断の決め手

島村さんと陶芸の出会いは十代の頃。土の感触と自分の手から作品を作り上げる体験に、楽しさとときめきを覚えました。元々絵を描くのが好きだった島村さんは、グラフィックデザインの仕事に就きます。平日の昼間は会社で働き、夜と休日は陶芸の時間。両立を続けたある日、島村さんは陶芸家になる決断をします。はじめて陶芸を体験した際の”ときめき”が決め手でした。

陶芸家として独立した島村さんは、「品川アーティスト展」に参加したことをきっかけに、品川区での活動が増えていきました。「品川区伝統工芸保存会」の一員として、陶芸の魅力を広く発信しています。「品川区の方々をはじめ、沢山の方とのご縁があって今に至ります」と島村さんは語ります。

制作中の島村さん

時間をかけて命を吹き込む、動物モチーフの作品たち

主に動物をモチーフにした作品を作る島村さん。「陶磁器の表面に施す釉薬(ゆうやく) が自然に垂れたように見えて、実は動物のシルエットであることがわかるデザインを思いついたのが始まりです。不思議な模様のようで、角度を変えると動物だとわかるんです」。デフォルメ化や、パターン化された動物が作品に落とし込まれています。

島村さんの作品の技法には、絵付けの他に「象嵌(ぞうがん)」が用いられています。胎土(たいど)の表面を彫り、そこに異なる色の土をはめこみます。焼成時にひびが入らないように土の収縮率を考慮して制作する必要があります。

作品の完成までには時間がかかります。作品が乾燥するのを待ったり、窯が冷める時間も含まれます。「完成するまでの間には待ちの時間が多くあります。その待ちの時間に異なる作業を並行して行い、限られた時間を大事に使うようにしています」。

表裏象嵌豆皿

丁寧に向き合った作品が、何百年先も愛されるように

動物モチーフであること以外にも、島村さんがこだわるポイントは「形」です。食器であれば使いやすいことはもちろん、目で見ても美しいと思える作品にこだわって制作しています。

陶芸の魅力は「わくわくすること」だと島村さんは語ります。「自分の手で触れて、形にして、作品が生まれることってわくわくしますよね」。体験教室を開いていたころ、参加者の方が楽しそうに作っていたことも印象に残っているそうです。「誰でも作れて、作品にその人の個性が出るのも面白いです。陶磁器は焼くと縮むので、自分が想像していたものと少し違う雰囲気になったりするんです。だからこそ、次はこうしてみようとか、あれを作ってみたい、と好奇心をくすぐられます」。

島村さんが大切にしている言葉があります。「丁寧にしっかりと仕事を続けること。その姿勢を見てくれている人は必ずいるから」。独立当時に大先輩から言われた言葉です。「自分で決めた仕事だから、ずっと陶芸を続けたいと思っています。忙しくて焦ってしまいそうな時でも、作品と向き合い、丁寧に仕事をすることを大切にしています」。

最後に、島村さんの夢について伺いました。「大勢の目に触れる場所に、自分の作品が置かれたらいいなと思っています。私がいなくなっても、何百年先も残るような。今の仕事を続けた結果、そのような作品を生み出せたら幸せです」。

(編集委員 古郡)

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