品川区に今も残る伝統工芸(江戸切子)

品川区に今も残る伝統工芸(江戸切子)
第163号(2023.2.20発行)

品川区の江戸切子職人、川辺勝久さん(品川区南品川)。江戸切子を製作し販売するだけでなく、地域の小学校での実演や体験授業を積極的に行っています。今回は、江戸切子の魅力や、江戸切子を通じた地域との繋がりについて、川辺さんにお伺いしました。

たゆまぬ研鑽が生み出す、緻密で繊細な江戸切子

川辺さんは中学卒業後、江戸切子職人だった父親の手伝いを始めました。夜間定時制高校に通いながら父親を手伝っていましたが、2年生のとき、江戸切子に専念することを決心し退学。父親に弟子入りしました。

江戸切子は、円盤状の砥石を高速で回転させることで硝子に模様をつけます。大きさや角度が異なる砥石を使い分けることで、緻密な模様の江戸切子を製作することができるのです。弟子入りした当初は、砥石などの道具作りからスタート。「道具作りを完璧に習得できるまで、江戸切子を作らせてもらえなかった」と川辺さんは語ります。

江戸切子の技術習得以外に大変だったのは仕入れや税金関連の経理の仕事でした。慣れない作業に苦戦しながらも、家業を継ぐ者として、職人でありながら経営も行う「商人職人」の精神や技術を身につけました。

そんな中、川辺さんが30歳のときに師匠である父親が他界。「江戸切子の職人は一人前になるまで30年くらいかかります。父親が他界してからは、周りの職人の作品や工房を参考に、必死で技術を磨きました」と川辺さんは当時を振り返ります。川辺さんを支え続けたのは、妻の良子さんです。製作前の硝子に目印をつけたり、製作後に検品を行うのは良子さんの仕事。検品は良子さんの方が上手い、と川辺さんは顔をほころばせました。

江戸切子は、様々な模様を組み合わせることで1つの作品を作ります。硝子は湾曲しているため、模様を繋ぎ合わせ、同じ深さでカットするには緻密で繊細な技術が求められます。江戸切子の製作で重要なのは集中力。作業中はくしゃみも瞬きもできません。座る位置や体勢が変わるだけでも感覚がずれてしまうため、1つの模様を削り終わるまではトイレにも行きません。江戸切子の作品を1つ製作するのに、最低でも3日はかかるそうです。

卓越した川辺さんの職人芸

江戸切子の普遍的な美しさを、子供たちに伝え続けたい

川辺さんが品川区の小学校で体験授業をはじめたのは約25年前。「若い人に技術を教えるのは張り合いがある」と川辺さんは笑います。これは私の宝物、と見せてくれたものは、体験学習を受けた生徒さんからの感謝の手紙でした。街中で「江戸切子の先生だ!」と声を掛けられたり、10年以上前に体験学習を受けた生徒さんに居酒屋で会い、「あの時作った江戸切子、今でも大切に持っています。今日は僕が奢ります」と言ってもらえたこともあったのだそう。長年地域に根ざした活動を行ってきた川辺さんならではの出来事です。

「江戸切子の魅力は、無限のデザインと普遍的な美しさ」と川辺さんは語ります。「職人のセンス次第で、様々な模様ができます。江戸切子の模様はとにかく綺麗なんですよ。一目で誰もが綺麗だと感じるでしょう。年齢や時代を超えた美しさがあると思います」。川辺さんが製作した江戸切子は個人で購入も可能。ぜひ一度、川辺硝子加工所に足を運んでみてください。

                                   (編集委員 古郡)

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