和裁とは、主に着物を仕立てることを指します。13m程の織物である反物(たんもの)を裁断し縫い合わせると一着の着物になりますが、着物の形になるまでには様々な工程があり、技術や経験が必要です。今回は和裁士の高橋紀子さんに、和裁のことや、品川区の伝統工芸保存会の一員として活動を続ける理由についてお伺いしました。
きっかけは浴衣作り手縫いの奥深さを知り和裁士の道へ
短期大学で服飾を学んでいた高橋さんは、夏休みに自身で浴衣を仕立てた際に手縫いの奥深さと面白さを知り、和裁の縫製会社に入社します。「短大では洋裁を学んでいたため、就職を機に本格的に和裁の技術を学びました。入社後はまず和裁の基礎である「運針(うんしん:基本となる縫い方)」や「くけ(裾や袖口に用いる縫い方)」の技術を修練し、丁寧かつ迅速に着物を仕立てられるよう技術を磨きました」。縫製会社には約8年勤め、その後、和裁士として独立しました。
手縫いは生地への負担を少なくし、絶妙な力加減を調整できます。また、ミシン縫いと比べると仕立て直しがしやすい点も特徴です。関東では生地を足の指に挟んで縫う「男仕立て」が一般的ですが、それ以外の地域では懸吊機(けんちょうき)を使い、正座して縫う方法もあります。
和裁ではまず、「検反(けんたん)」を行い、反物に傷や汚れ、色やけがないか確認し、長さを測ります。その後、採寸表を確認し、仕立て上がった際に美しく見えるよう柄の配置を考える「柄合わせ」を行います。留袖や訪問着は柄の位置が決まっていますが、全体に模様が入っている小紋は縫い合わせた際に柄が並ばないよう綺麗に配置する必要があります。「大きな柄は特に大変です。身長が高い方は生地に余裕がないため、柄の位置を決めるのが難しいこともあります」。柄合わせが決まったら生地に印をつけ、裁断します。8つのパーツごとに分かれた生地を縫い合わせ、着物ができあがります。「独立してからはお客様と直接やりとりすることができ、その方の着姿を想像して縫えるようになりました。そうして出来上がった一着を喜んでもらえることが嬉しいです」と高橋さんは話してくれました。
教育と環境づくりを通じ、和裁を続けられる人を増やす
高橋さんは、毎年きゅりあんで開催される「伝統の技と味 しながわ展」や中小企業センター(またはエコルとごし)での体験教室などを通じ、伝統工芸を身近に感じ、知ってもらう活動を行っています。高橋さんの体験教室では、飾り紐結びや巾着作りを体験できます。「参加される方は子供から大人まで幅広く、皆さん楽しそうに体験される姿が印象に残っています。作品にはそれぞれのこだわりや性格が出るので面白いですよ」。高橋さんは自宅で和裁教室も開催しています。また、品川区伝統工芸保存会の活動以外にも、東京和服裁縫協同組合と東京都和裁技能士会の一員として、都が主催するものづくりイベントや、小中学校のものづくり教室に携わっています。自身も定期的に和裁の勉強会に通い、知識・技術の向上を続けています。
最後に、高橋さんに今後の活動についてお伺いしました。「今後もお客様の着物の仕立てを続けるのはもちろん、さまざまな世代の方に和裁について知っていただきたいです。体験教室やイベントをきっかけに、和裁の技術や和裁士という職業を身近に感じてもらえたら嬉しいです。私が和裁士として活動を続けることで、和裁の良さや技術が受け継がれ、和裁を続けられる人が増える環境づくりに少しでも貢献したいと思っています」。
(編集委員 古郡)